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近紫外光を赤色光へ変換するYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体

インビジブルな蛍光体の用途と現在の問題点
 アート・装飾分野やセキュリティー等の分野において、紫外線などの光エネルギーを照射することにより発光する種々の無機系蛍光体が使用されています。その際、蛍光体粉末を塗料またはインキに加工し、それを目的物に塗装または印刷します。例えば、アート・装飾分野では、蛍光体含有塗料を利用して、芸術家や工芸塗装技術者がテーマパーク、ホテル、地下道、列車などの壁や天井に装飾画等を描き、その画像にブラックライト(人体に対して害が少ない波長365nmの紫外線)などの紫外線を照射して鮮やかな蛍光発色画を浮かび上がらせます。

 最近、インクジェット印刷技術の飛躍的な進歩により、色鮮やかで高精細な屋内・屋外の広告看板や電飾看板が多く見られるようになっています。アート・装飾画やセキュリティーの分野においても、このようなインクジェットを始めとする印刷技術によって、高精細、かつ、見た目に透明に見える「インビジブルな印刷製品」への期待が高まっています。例えば、偽造防止の目的でIDカードにバーコードを目に見えないように印刷することができます。現在、インビジブルな用途には、分子サイズの金属錯体の蛍光体が実用化されていますが、その耐久性は無機系蛍光体に比べてはるかに低いことが問題となっています。

 一方、無機系蛍光体をインビジブル用途に利用するためには、光散乱強度がきわめて低い約50nm以下のナノ粒子が必要であると考えられます。通常、無機系蛍光体は、原料の無機化合物粉末を混合し、高温で焼成した後、物理的に粉砕することによって作られています。このような固相法においては、ナノサイズに微粉砕することは困難であるとともに、たとえ微粉砕できても蛍光体の輝度は著しく低下します。このため、インビジブルな用途には従来の固相法による蛍光体を利用することはできないと考えられます。

YVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体に関する取り組み
 以上のような背景から、当研究室ではインビジブルな用途に利用できる無機系ナノ蛍光体低温液相合成法によって作製することを検討してきました。その結果、見た目には透明に見え、ブラックライトを当てると赤色に発光するBi3+とEu3+をドープしたYVO4YVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体を開発できました。ここでは、その内容をご紹介します。

 当研究室ではBi3+のs−p遷移が許容であることに着目し、高効率で励起できるBi3を含む蛍光体に着目しました。YVO4:Eu3+は300nmのUV光を吸収し、O2−からV5+への電荷移動遷移、それに引き続いてEu3+へのエネルギー移動が起こり、Eu3+のf−f遷移により赤色に発光します。YVO4:Eu3+にBi3+を共ドープすると、O2−の2p軌道にBi3+の6s軌道、V5+の3d軌道にBi3+の6p軌道が関わるようになり、励起に必要なエネルギーが低下します。その結果、波長365nmのブラックライトをYVO4:Bi3+,Eu3+に照射すると赤色に発光します。

 透明に見えるナノ粒子分散液を作製する手法として、Boilotらの研究グループによって提案されたクエン酸前駆体を利用したYVO4:Eu3+ナノ粒子の合成法を参照し、YVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体の作製方法を検討しました。Boilotらは、硝酸イットリウムと硝酸ユウロピウム(V)を純水に溶解し、クエン酸ナトリウムを添加した後、塩基側に調整したオルトバナジン酸ナトリウム水溶液を混合してYVO4:Eu3+ナノ蛍光体を作製しています。

 一方、硝酸ビスマスはイットリウムやユウロピウムの硝酸塩とは異なり、純水へ投入しても溶解しません。このため、YVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体の作製では、まず初めにクエン酸ビスマスを(Y,Eu)クエン酸塩前駆体と共存させ、オルトバナジン酸ナトリウムの添加後に、熟成を通して異種金属イオンの均一な混合を促進させることを試みました。作製したYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体の電子顕微鏡写真では長さ約40nmの針状粒子が数本積層している様子が観察されました。しかし、Bi3+を主成分とする副生成物が生成し、生成物の熟成を長時間行うとBi3+が粒子表面近傍に偏析し、濃度消光により蛍光強度が低下する現象が観測されました。

 この問題点を解決するために、クエン酸ビスマスに代わるBi3+原料として硝酸ビスマスのエチレングリコール溶液を用いてYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体を作製しました。同法では、均一なBi3+分布をもつ前駆体から仕込み組成と同じナノ蛍光体が得られ、また、熟成に伴って蛍光強度は一定値に収束しました。1次粒子径は約10〜20nm流体力学的粒子径は約20〜40nmであるため、このナノ蛍光体はインビジブルな蛍光塗料の用途として十分に活用できます。

開発されたYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体の特徴
 ナノ粒子を38.8 wt%含む波長変換膜および固相法により作製したミクロン粒子を30.0 wt%含む波長変換膜を作製しました。ナノ粒子が分散した膜は可視域において高い透明性を示しましたが、ミクロン粒子が分散した膜は不透明でした。例えば、この蛍光体の蛍光波長である619 nmにおける透過率は膜厚100μmで前者が96%、後者が0.13%でした。波長変換特性の評価にあたり、膜の背面から波長365nmの励起光を照射し、膜の前面に設置した検出器によって波長619 nmの蛍光強度を測定しました。ナノ粒子が分散した膜の蛍光強度は膜厚とともに増加しましたが、ミクロン粒子が分散した膜では蛍光強度は膜厚約40μmで極大を示し、それ以上の膜厚では蛍光強度は著しく低下しました。これらの結果は、蛍光体粒子をナノサイズ化することによって光散乱損失が低減でき、透過光の波長変換効率が向上できることを示唆します。

 市販のインクジェットプリンターでOHPシートにYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体を印刷しました。面状に印刷した部分の透明はきわめて高く、シートの下に置いた印刷物の文字は明瞭に見えます。また、ブラックライトで励起すると印刷部位は発光して目視でわかります。一方、カーボンアークフェードメーターによる長期耐光性試験を実施しました。その結果、金属錯体は屋外1週間程度でほぼ退色するのに対し、YVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体は現時点において屋外5年相当の耐光性を有することを確認しました。

 このナノ蛍光体は当研究室とシンロイヒ株式会社との共同研究によって開発され、ルミライトナノR-Y202として製品化されています。現在もなおYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体の合成方法の改善は進んでおり、今後ますますその特性は向上されるものと思われます。近未来にYVO4:Bi3+,Eu3+ナノ蛍光体がインビジブル蛍光塗料としてアート・装飾分野およびセキュリティー、工程管理分野などで活用されることを期待しています。さらに、エネルギーの有効活用の観点から、紫外線を可視光へ変換する波長変換材料として太陽電池用途などの新たな産業分野にナノ蛍光体が活用されることを期待しています。

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Last Update : 11/09/16