1.拡散スクラバー法による新たな環境計測技術の開発
2.拡散スクラバー法による低濃度標準ガスの調製法の開発
3.レーザーアブレーションとICP-MS分析を組合わせた大気粉塵中微量金属の測定
1.拡散スクラバー法による新たな環境計測技術の開発
@拡散スクラバーを用いた有害ガス成分自動連続測定装置
拡散スクラバーは、
拡散係数の違いを利用し、ガス成分と粒子のうち拡散係数の大きいガス成分のみを選択的に
捕集する装置である。この拡散スクラバーは、内管に多孔質テフロン(PPTFE)チューブを使い
外管にガラス管を使った2重管構造になっている。内管と外管の間に吸収液を満たし、内管
の多孔質テフロンチューブ内に大気を通気させる。拡散スクラバーに空気を通すと、ガス成
分が拡散によりPPTFEチューブの内壁を通過して外側の吸収液に捕集される。吸収液に純水を
使用することで、多くの水溶性のガス成分(HCl、HNO3、SO2、NH3等)が捕集できる。また、吸
収液に水以外の溶液を用いることで他のガス成分の捕集も可能である。
拡散スクラバーは、ガス捕集装置だけでなく、 分析機器との接続が簡単な優れたインターフェースである。そのた
め、IC、HPLC等の分析機器との組合せにより、サブppbvレベルの大気中微量ガス成分の自動連
続測定が可能である。
上の写真は、拡散スクラバーとコンパクトな液体クロマトグラフとを組合せ、東京ダイレック
との共同で製作したポータブルなアルデヒドの自動連続測定装置(外寸:30×40×50cm,重量:
30kg)を示す。
本装置により、作業現場、室内などの様々な環境でのアルデヒドの自動連続モニタリングが
可能となった。
酸性ガス・塩基性ガス自動連続測定装置の概略図 |
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本研究と従来法の比較表 |
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酸性ガス・塩基性ガス及びアルデヒドの測定条件と検出限界値 |
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ATiO2光触媒を用いた拡散スクラバーによる有害ガス成分の測定
【NOxの測定】
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図 TiO2光触媒を用いた拡散スクラバー(NOx捕集用) |
NOXは水に溶けにくく、水を吸収液とした多孔質チューブを用いた拡散スクラバーでは捕集できない。
そこで、上図に示す外管のガラス管の内壁に酸化チタン(TiO2)光触媒とヒドロキシアパタイト(HAp)をコー
ティングし、内管には石英管を用いてその内にUVランプを入れたNOX用の拡散スクラバーを開発した。
2重管の隙間に空気を流すと、空気中のNOXはTiO2光触媒によりNO2、HNO3に酸化され、外管内壁のTiO2/
HApコーティング面に捕集される。 捕集されたNOXは、水によりNO2-、NO3-として容易に抽出・回収でき、
これらのイオンをIC分析で定量することによりNOX濃度を測定することができる。 又、TiO2/HApコーティング
面を乾燥すれば、繰り返して空気中NOXを捕集・測定することができる。
【VOCの測定】
近年、住宅の気密化に伴い、建築材料や接着剤等から放出される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic
Compounds)が高濃度で検出されることが問題となっている。これらのVOCはシックハウス症候群や化学物質過敏
症などの原因になると報告され、健康への影響が懸念されている。現在わが国においても厚生労働省により
11のVOCについて指針値が定められ、また、住宅内のVOCの総量「TVOC(総揮発性有機化合物)」についても
400μg/m3(新築住宅は1000μg/m3)の暫定目標値が示されるなど、化学物質対策が
進められている。
VOCの対策を検討する上で、VOC汚染の指標となるTVOC濃度の測定が重要である。現在、TVOCの測定はGC-MS、
GC-FIDなどを用いてそれぞれのVOC濃度の和から算出する方法がとられている。しかし、室内には数百種類に
も及ぶ様々なVOCが存在するため、これらの多種類のVOCを個々に測定することは大変な労力を要し、より簡
便なTVOC測定方法の開発が必要である。
そこで本研究ではTVOCを一括測定する方法として、光触媒である酸化チタン(TiO2)の光触媒作用を利用し
VOCをCO2まで分解した後、非分散型赤外線分析計(ND-IR:Nondispersive Infrared Analyzer)によりCO2濃
度を測定することでTVOCの測定を行うことを目指す。
下図に示したTiO2をコーティングした拡散スクラバー(TiO2-D.S.)を用いてVOCの分解を行う。VOCをCO2に分解
しTVOCを測定するためには、TiO2-D.S.によりそれぞれのVOCがCO2まで分解されなくてはならない。そこで
、VOCの中で室内空気中において高濃度であるホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、
ベンゼン等についてTiO2-D.S.による分解実験を検討した結果、90%以上の高い分解効率が得られることが判った。
VOCが分解され生じるCO2を測定する際には空気中に存在するCO2が妨害となる。そこで、CO2とVOCの沸点の
違いを利用し、Cold trapを用いてVOCのみを選択的に凝縮捕集する。その後加熱により脱着させ揮発した
VOCのみをTiO2-D.S.に導入することでVOCから分解し生じたCO2のみをND-IRで測定できる。
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図 光触媒を用いた拡散スクラバーによるTVOCの測定装置の構成図 |
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図 拡散スクラバーを用いた応用例 |
Bミニチュア拡散スクラバーによる室内空気汚染ガスの簡易モニタリング
ホルムアルデヒドはシックビルディング症候群に代表される室内空気汚染物質である。ホルムアルデヒド
はWHOにより発ガン可能性物質に指定されており、わが国でも厚生省により室内環境中の30分間の平均値で
80ppbv以下という指針値が示されている。そこで、現場での測定が可能な室内環境中のホルムアルデヒド
濃度の簡便な測定方法が必要となってきた。現在、ホルムアルデヒドの測定に用いられているDNPH-HPLC又
はDNPH-GC法は、分析室に設置された高価なHPLC、GCの分析装置が必要であり、現場でのホルムアルデヒド
濃度を簡便に測定するには適していない。そこで、当研究室で開発してきた大気汚染ガス捕集装置である
拡散スクラバーをコンパクトにした“ミニチュア拡散スクラバー”を開発した。このガス捕集装置を用い
ることにより、わずか1ml程度の吸収液にガスを捕集することができる。従って、分析感度が低く、使用
されなかった簡便な比色分析法を使用でき、LED-PM(発光ダイオード比色計)と組合せた大気汚染ガスの簡
易測定法を開発することができた。
“ミニチュア拡散スクラバー”〈下写真参照〉は、内管に多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PPTFE)
チューブ(4×5mmφ)を用い、外管にガラス管(7×9mmφ)を使用したシンプルな二重管であり、ガス成分
のみを効率的に捕集することができる。全長は約10cmとコンパクトなガス捕集管である“ミニチュア拡
散スクラバー”の概要を下右図に示す。“ミニチュア拡散スクラバー”内の吸収液は1ml程度であり、
大気吸引流量100mL/min、ホルムアルデヒドガス濃度約100ppbvの場合、捕集効率は97.0%であり、ホルム
アルデヒドをほぼ100%捕集することができた。吸収液に高倍率で濃縮捕集されたホルムアルデヒドは、
発色試薬を加え発色させ、LED-PM(ピーク波長555nm)で測定を行った。LED-PMの概要を下中左図に示す。
ホルムアルデヒド標準用液50、100、250、500ng/ml(すべて2ml調整後のホルムアルデヒド濃度)を調製し
、AHMT(4-amino-3-hydrazino-5-mercapto-1、2、4-triazole)5mgを加えよく振って20分間反応させた後、
過ヨウ素酸カリウム7.5mgを加え発色させた〈下中右図参照〉。それぞれLED-PMで測定を行い、検量線
を作成した。得られた検量線の相関係数は0.999と非常に直線性の高いものを得ることができた。
本法とホルムアルデヒド測定法として一般的に用いられているDNPH(2,4-dinitrophenylhydrazine)/
HPLC法との比較結果を表に示した。また、横浜市日吉慶應義塾大学理工学部14棟601号の室内空気中
ホルムアルデヒド濃度を本法とDNPH/HPLC法により測定を行った。その結果、室内空気中ホルムアルデ
ヒド濃度は本法が23.4±4.6ppbv(n=7)、DNPH/HPLC法が21.2±4.4ppbv(n=7)となり、両方の測定値の間
で良好な一致が得られた。これらの結果から、本法は、従来から用いられているDNPH/HPLC法と比較し
て分析感度、分析精度ともに遜色無いことがわかった。更に本法は、吸収液および発色試薬の種類を変
えることで、二酸化硫黄、二酸化窒素、アンモニア等の大気汚染ガス測定にも応用できる。
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写真 ミニチュア拡散スクラバーとLED比色計(ガステック鰍謔關サ品化) |
図 ミニチュア拡散スクラバーの概要 |
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図 LED-PMの概要 | 図 AHMT法について |
C拡散スクラバーとLED比色計を組合せた大気汚染ガスの自動連続測定装置の開発
新しい拡散スクラバーの概略図を左図に示す。従来、吸光光度法の測定セルはガラス
または石英製のものが一般的である。これにガス交換を行うことのできるPPTFE(Porous Polytetraf
luoroethylene)を用いることで、ガス捕集も行うことができる測定セルを作ることが新しい大気汚染
ガス測定装置である。拡散スクラバーは内管と外管からなる二重管構造である。内管内に吸収液を満
たしてガスの捕集を行う。大気中のガス成分はすばやくPPTFEの壁面へ拡散し、内管内の吸収液に捕集
される。吸収液にガス成分と選択的に発色反応を起こす試薬を用いることで発色させる。このとき、
スクラバーの両端にレンズを設置し、スクラバー内の試料溶液の吸光度を測定することによりガス成分
の定量を行う。また、吸収液に用いる試薬を変えることで、さまざまなガス成分の測定を行うことができる。
吸光度の測定に際して、その光源に発光ダイオードLEDを用いることを検討している。LEDは一定波長の光
のみを発する光源であるため、分光器が不要となる。さらにLEDが非常に安価であるため、装置全体とし
ても非常に安価なものが作製できる。また、下図に示す様に、光ファイバーを組合せて測定光を伝
達させることで、現場から離れて分析操作を遠隔で行うことも可能になる。開発する測定装置では、ガス
捕集と同時に吸光度を連続的に測定できる。そして、吸光度の時間変化を捉えることにより、一定時間の
平均濃度を知るだけでなく、下中右図に示すように瞬間濃度の値も得ることができる。従って、大気汚
染ガスの自動連続測定を行うことが可能となる。代表的な大気汚染物質である二酸化窒素について、ザル
ツマン吸光光度法を本装置に適用することを検討した。二酸化窒素は、水に溶けると硝酸イオンと亜硝酸
イオンを生成する。このうちの亜硝酸イオンがザルツマン試薬と反応してアゾ化合物となり、この物質の
吸光度を545nmの吸収波長にて測定する。定量の際には、ザルツマン係数と呼ばれる硝酸イオンと亜硝酸
イオンの組成比の値で補正する。この方法は、ガス捕集と同時に吸収液中で発色反応が起こるので、本装
置の適用が可能である。具体的な測定装置の構成を写真に示す。二酸化窒素の捕集には、拡散ス
クラバー(有効長10cm)を使用し、吸収液にはザルツマン吸収液を用いた。通気流量は0.1L/minとした。吸
光度の測定には、(株)島津製作所製の分光光度計MultiSpec-1500と光ファイバーを組合せたものを用いた。
本測定装置とNOxメーター(化学発光法)とで実際に大気中の二酸化窒素濃度を測定した結果を図
(20分間平均値)と下右表(瞬間値)とに示した。大気中二酸化窒素濃度の2つの方法による測定値は、
20分間平均値及び瞬間値ともによく一致し、本測定装置による大気中二酸化窒素濃度の測定値の信頼性
が確認できた。又、本測定装置による大気中二酸化窒素の検出限界濃度は0.04ppb(60分間大気サンプリ
ング、大気採取量6Lの場合)と極めて低く、環境大気中の二酸化窒素濃度の測定に充分対応できる。
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図 吸光光度計の測定セルを兼ねた 拡散スクラバーの概要図 |
図 拡散スクラバーと光ファイバーを組合せた 新しい大気汚染ガス測定装置の概略図 |
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図 吸光度曲線から瞬間濃度の算出 |
写真 拡散スクラバーと光ファイバーを組合せた 大気汚染ガスの測定装置 |
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