慶應義塾大学理工学部応用化学科 有機物質化学研究室 

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化粧品技術・表面技術

「平らな塗工表面を作製する」なんて,難しくも何ともないと思っていませんか?では,本当にそうか実際に試してみましょう。

下のビデオをご覧下さい。これは,リニアモーターコーターでガラス基板上にアプリケーターと呼ばれる金属製円柱を用いて液膜を塗工しているにも関わらず,塗工方向と平行に微細なストライプパターンが自発的に形成されます。
coating
これはヴィスコスフィンガリングという現象です。空気のような低粘性の流体が高粘性の流体中に注入される際に,界面の形状ゆらぎが成長して,空間周期的なストライプパターンが自発的に形成されます。

なお,ヴィスコスフィンガリングは,日常生活における身の回りのものを使用して簡単に見ることが出来ます。2枚のガラス板に糊,ワセリン,グリースなどを挟んでから,これを下のビデオのように一気に引き離してみて下さい。樹状パターンがヴィスコスフィンガリングにより形成される様子が観察されるはずです。

  さて,下の渦巻き模様は何でしょうか?右のビデオをご覧になるとわかると思いますが,高速で回転している基板上に流入している液体が自発的に形成する流動パターンです。
 
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この他にも,コーティングにおいては様々な自発的な構造発生が起こります。棚やドアの塗装面を横から目を凝らして見ると,数mm周期の凹凸構造が観察できます。これはオレンジピール(ゆず肌)と呼ばれ,塗装面の乾燥過程で自発的に発生する構造です。また,アルミサッシを近くで見ると約0.1mm周期のストライプ模様が観察でき,これはアルミ加工の際に自発的に発生する構造です。 これら構造発生は,高級車の塗装,DVDBlue-ray Diskの作製,フォトレジストの塗布などにおいて大きな問題となります。そして,当研究室では,サンスクリーン剤の紫外線防御効果を測定する方法に関して,国際的にin vitro法の開発が進められているものの,様々な問題点があることが指摘されており,これはサンスクリーン試料を平滑に塗工するのが難しいためであると考え,「サンスクリーン剤性能評価法の開発ならびにその塗工時における性能変化の解析とその防止法の開発」(企業との共同研究)を行っています。 また,これまでに,このような構造発生を逆手にとって,これを撥水性表面の作製に応用する研究なども行い,その成果はサンスクリーン剤の開発にも繋がりました。
現在は液膜塗工における自発的パターン形成を利用した光学材料の開発」(物理情報工学科との共同研究)も行っています。塗工において自発的に発生する空間周期ストライプパターンを,これはマイクロレンズ構造に応用させる研究です。マイクロレンズアレイは,光拡散板として液晶ディスプレイのバックライトシステムやLED照明のムラ解消などに使用されるもので,一般的には金型を利用した射出成形やフォトリソグラフィーなどにより生産されるのですが,ここでは,このような塗工における自発的な構造発生により作成する技術の開発を目指します。実際に,以下のようにレーザー光を拡散させるマイクロレンズアレイ構造を形成させる技術は開発されています。  

自発的に形成する空間パターン

生命体においては,バイオリズムと呼ばれる様々な時間的,空間的,時空間的パターンが発生します。では,人工的な化学系ではどうでしょうか?

ホモキラリティー起源研究

なぜ天然のアミノ酸はL体のみ,糖はD体のみなのでしょう?これがわかると,医薬品,化粧品,食品,そして液晶材料の開発などにも有用です。

機能性ベシクルの開発

輸送体やセンサーなどの材料として注目されているベシクルの安定性,サイズ,形状などを高度に制御するための技術を開発しています。

運動するソフトマターの創製

生命体の特徴でもある運動性は,人工物にも見出すことができます。分子の性質から,運動する物体をどうやってつくるか考えてみましょう。