2.ネットワーク観測による首都圏の降水中化学成分に対する三宅島火山ガスの影響

 これまで首都圏における降水の酸性化は、工場や自動車などの人為的な発生源から放出 される大気汚染物質によるものが中心であった。しかし2000年9月以降、三宅島の噴火によりSO2を含む火 山ガスが大量に放出されている(下左写真参照)。現在までのSO2放出量は世界的に見ても過去に例が ないほど莫大であり、一説には年間約1500万トンと推定されている。三宅島噴火活動後、首都圏各地で きわめて高い大気中SO2濃度がしばしば観測されており、降水の更なる酸性化も懸念される。そこで、首 都圏酸性雨ネットワーク観測の5地点(日吉、柏、藤沢、横須賀、八王子)での降水・乾性降下物のイオ ン成分濃度の分析結果を基にして、首都圏の降水への三宅島噴火活動の影響を検討した。
 三宅島噴火活動が首都圏の降水に対してどのような影響を与えたのかを探るため、噴火期間(2000年9月 〜2001年8月)の各観測地点での月別降水中イオン成分濃度と、噴火以前10年間(1990年9月〜2000年8月 )の月別平均値とを下右図及び中右図にそれぞれ示し比較した。
 その結果、噴火以前10年間におけるpHの平均値は4.5前後であったのに対し、2000年9月、10月、11月は4 .1台と非常に低いpH値を示した。そのほか、nss-SO42-濃度(nss:non sea salt、非海塩性起源の意味) も噴火以前10年間の平均値と比べて高く、2000年11月においては統計的に有意な差が認められた(有意水 準5%)。このことから、火山から放出されたSO2ガスが降水中で硫酸となったことで、2000年9月以降に降 水の酸性化が引き起こされたものと考えられる。
 降水中イオン成分濃度はあくまでも濃度であり、一定の期間に沈着したイオン成分の全体量を評価するには、 降水量を加味した湿性沈着量、および乾性降下物として沈着した乾性沈着量が必要となる。そこで、噴火期間 (2000年9月〜2001年8月)および噴火以前の10年間(1990年9月〜2000年8月)のnss-SO42-沈着量を算出した。
 中右図と下右図に、横浜市日吉におけるnss-SO42-の湿性沈着量と乾性沈着量の経月変化をそれぞれ示した。 湿性沈着量については、1990年9月〜2000年8月の場合は、冬季に少なくなり、梅雨期に大きくなるという傾向を 示し、湿性沈着量は1.08〜8.25(meq/m2/month)であった。一方、三宅島噴火の始まった2000年9月以降は、湿性沈 着量が10(meq/m2/month)を越える月がしばしば出現した。しかしながら、乾性沈着量は噴火時期と噴火以前10年 間とではあまり相違が認められなかった。したがって、三宅島噴火活動が首都圏に与える影響としては湿性沈着 量の増加が顕著であり、乾性沈着量の増加はあまり見られなかった。
 湿性沈着量と乾性沈着量を合計したnss-SO42-全沈着量について、観測地点別に下右表に示した。 全観測地点においてnss-SO42-沈着量が増加していたが、最も東に位置する柏での増加量は9.9(meq/m2/year) であったのに対し、最も西に位置する八王子では78.5(meq/m2/year)と大幅に増加し、首都圏西部において三宅 島噴火活動の影響が顕著であることがわかった。


 

 

 

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