2.拡散スクラバー法による低濃度標準ガスの調製法の開発
現在、環境大気中における微量ガスの分析が行われるようになり、それに伴い低濃度の標準ガスも
必要とされている。ガス濃度にすると従来の数ppmといった濃度からさらに3桁低い濃度、数ppbレベルの安定した標
準ガスが求められている。NOやNO2といった比較的安定なガスの場合、数ppmという高濃度の標準ガスボンベが市販
されており、これを希釈して環境大気測定用の低濃度標準ガスとして使用している。しかしながら、HNO3、HClガス
といった超親水性のガスは反応性が高く、標準ガスボンベとして市販されておらず、低濃度の標準ガスの調製は困
難であった。
本研究においては従来の発想を全く逆転し、ガスを吸収した高濃度溶液を拡散スクラバーに入れて清浄空気を通
気させることで、数ppbレベルの低濃度のガスを直接発生させる。そして、本法による強酸性ガス(HNO3、HCl)の
低濃度標準ガス調製法の最適条件を検付した。
下左図に拡散スクラバーを用いた低濃度ガス発生装置の原理を示す。拡散スクラバーは、内管に多孔質テ
フロンチューブ、外管にガラス管といったシンプルな二重管構造である。外管にガスを発生させるための高濃度
ガス発生溶液を満たし、内管に清浄空気を通すと、解離平衡並び気液平衡によってガス発生溶液から低濃度ガス
が発生する。本実験においては、拡散スクラバーを恒温水槽に浸し一定温度(10℃)に保った。また、ガス溶液
にはHClまたはHNO2を用い、内管に流す空気は精製した清浄空気を使用した。発生したガスは、本研究室で開発・
実用化した酸性・塩基性ガス自動連続測定装置にて測定した。
下右図に発生したHNO2ガス濃度の経時変化を示す。HNO3ガスは、1MのHNO3溶液の場合、
9.63±0.16ppbv(n=133)
,変動係数1.9%で長期間安定した濃度でHNO3ガスが発生した。また、HClガスに関しても同様で、11.07±0.15ppbv(n=44)
変動係数1.4%といった結果が得られた。さらに、本法によって調製できる標準ガス濃度は、理論的に解離平衡ならび
に気液平衡から式(1)によって導かれ、ガス発生溶液の濃度を変えることにより目的濃度の標準ガスを調製できるこ
とが判った。
p=Ko-1y±2a2C2
=H-1Kd-1y±2a2C2
p:gas concentration, atm Ko:Gas-liquid equilibrium constant, M2atm-1
y:mean activity coefficient α:degree of dissociation
C:gas solution concentration, M H:Henry's constant, M atm-1
Kd:dissociation equilibrium constant, M
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図 ヘンリー則(気−液平衡)とガス発生 |
図 拡散スクラバーを用いたガス発生の原理 |
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図 拡散スクラバーを用いた |
図 拡散スクラバーを用いた発生発生した |
標準ガス発生装置の概略 |
HNO3標準ガス濃度の経時変化 |
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