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新しい光情報機能材料1(スマート蛍光体)


発光材料

 「明かり」は文明の根幹のひとつです。 数千年にわたって使われてきた火に変わり,前世紀,人間生活における明かりは,電気をエネルギー源とする白熱灯や蛍光灯が広く普及することとなりました。しかしながら,地球環境の保護が最も重要な課題となる今世紀,こうした照明技術にもまた省エネルギーや環境との調和が要求されています。例えば,白熱灯は電気-光変換効率が極めて低くエネルギー消費量が高いものですし,蛍光灯には水銀等の有害物質が含まれており大きな社会問題となっています。これらを解決する新しい照明技術として,発光ダイオード(LED)を用いた白色照明が普及段階に入ってきました。

 このように,新しい技術は新しい世界をつくる可能性を秘めています。本研究室では,固体光化学・半導体光化学・希土類材料科学という広い立場から,これまでにない新しい機能を併せ持つ発光材料の開発を行っています。とくに,化学的および物理的環境の変化を可視情報化(イメージング・モニタリング)する機能を有する世界に類のない「スマート蛍光体」の開発に力を注いでいます。


スマート蛍光体

 発光を利用した化学的および物理的情報の可視化(イメージング)が,種々の工業あるいは医療分野において重要な要素技術となりつつあります。例えば,がん細胞の可視化のために,がん細胞の酵素と共存しているときにだけ発光を示す有機蛍光分子が開発され,手術時に細かく散らばったがん細胞のみを摘出するのに役立っています。一方で,有機分子は一般に化学的・熱的安定性に乏しく,利用できる環境に著しい制約があります。そこで最近,無機物質の発光を利用してより過酷な環境下での化学的・物理的変化を可視化する試みがなされています。

 当研究室では,無機蛍光体の材料的側面において,表面微細構造に由来する機能発現に注目して研究を進めています。蛍光体(おもに希土類賦活型)は本来,母体結晶が絶縁体であり,賦活した希土類イオンによる発光も内殻電子が関わるだけなので,外部との相互作用という意味では電子的に不活性です。よって,このような蛍光体に外場応答的な機能発現を期待することは難しいと考えられてきました。これに対し当研究室では,微細構造を制御したリン酸セリウム(CePO4)やタングステン酸カルシウム(CaWO4)を母体とする蛍光体において,フルオロクロミズムという物理化学的現象を通して定量的かつ高速の酸化還元応答性が得られることを見出してきました。これを踏まえ,イメージングやセンシングなど新しい光利用技術となりうるスマート蛍光体を設計・合成し,新たな応答原理を発掘することが我々の大きな目標です。




新しい光情報機能材料2(協奏的クロミック材料)


クロミック材料

 物質に光があたると色が変わる現象をフォトクロミズム,物質に電圧をかけると色が変わる現象をエレクトロクロミズムといい,それぞれ紫外線を感じて着色するめがねのレンズや強い太陽光を浴びながら上空を飛ぶ飛行機の調光窓などに利用されています。これらの現象は,光照射や電圧印加によって物質の結晶構造や電子構造が変化し,その結果として光吸収特性が変わることに基づいています。当研究室では,これらの効果を併せ持つ協奏的クロミック材料の創製を目指した研究を行っています。

有機-無機ハイブリッド

 エレクトロクロミック(EC)材料のさまざまな用途を考えると,単色の変化しか示さない無機EC材料に比べて,多彩で鮮明な色調変化を示す有機EC分子は大変魅力的です。しかし有機EC分子は電解液に溶解させて使用する必要があり,その際,液中での分子の拡散が律速となるため応答速度が遅いことが問題です。そこで本研究室では,電解液の代わりに透明なワイドギャップ酸化物半導体の中に有機EC分子を固定することで,応答速度に優れ,なおかつ色調変化が鮮明な固体ハイブリッド型EC材料の創製を目指しています。



当研究室で蓄積された技術


光機能アセンブリー

 光情報化技術は,ひとつには,光を情報の媒体とする世界(CD,DVD,光通信, 光コンピュータなど)です。もうひとつは,光を我々の"目"で情報としてとらえる世界(ディスプレイ,イメージング,モニタリング技術)です。これらの技術には光機能性材料が必要不可欠です。人間が視覚として感じる色は,人工的には赤(R),緑(G),青(B)の三原色の組み合わせであらゆる色を作り出すことができます。それには,光と物質の基本的な相互作用(透過・反射・屈折・散乱など)を高度に制御した光機能性材料の構造設計が必要です。我々はさらに,相互作用に対して「外場応答」という概念を導入し,材料の微細構造までも精密に制御してさまざまな光機能を集積(アセンブリー)したスマート蛍光体協奏的クロミック材料の新しい世界を構築しています。

薄膜作製技術

 下の写真は本研究室で開発した透明薄膜蛍光体が紫外線の照射下で光っている様子です。石英(SiO2)ガラス基板上に化学的な合成方法を適用して,200nmぐらいの厚さのごく薄い膜をコートしています。何色に光るかは,膜を構成する物質の種類と添加した希土類イオンの種類によります。光をあてて光る現象をフォトルミネセンスと呼びます。光る膜を作るには合成条件や物質の選択など,いろいろな課題をひとつずつ丹念に調べていかなくてはなりません。







 透明な薄膜は,ゾル-ゲル法と呼ばれる方法で作られます。ゾル-ゲル法とは,溶液から出発する無機および無機-有機複合材料の合成法をいいます。溶液をガラスなどの基板にコートし,これを低温で加熱することによって厚さが1ミクロンよりも薄い膜を作ることができます。この方法で合成される材料の機能は光機能,電子機能,化学機能,生体機能など,広い範囲にわたり,様々な工業的利用がなされています。特に,"SOL-GEL OPTICS "と呼ばれる光学材料分野では、光導波路,光吸収膜,反射膜,蛍光膜,レーザー素子,非線形光学材料など多岐にわたる応用が期待されています。

  本研究室では,ゾル-ゲル技術をナノテクノロジーと融合させて、新しい光機能材料の創製に取り組んでいます。これによってナノ多孔質ガラス蛍光薄膜のようなこれまでにない材料を作ることに成功しました。また,酸化物材料を中心に発展してきたこの分野に対し,光学材料として重要なフッ化物合成技術を導入し,フッ化物薄膜,酸化物/フッ化物ナノ複合体,金属/フッ化物ナノ複合体などの従来にない材料を設計・開発することにも成功しました。現在は,ナノスケールで構造を制御し,構造由来の新機能が発現される無機発光材料の創製にゾル-ゲル技術を応用しています。


研究プロジェクト

強い面発光を示す透明薄膜蛍光体の作製と光学特性
フルオロクロミズム現象を示す新規無機蛍光体の探索
スマート蛍光体を用いた光センシング技術の構築
酸化還元に応答する無機蛍光体の開発
水素社会に向けた蛍光ガスセンサの創製
蛍光体の微細構造制御と新機能創製
有機-無機ハイブリッド蛍光体による分子センシング
有機-無機ハイブリッドを用いた協奏的クロミック材料の創製


関連著作

1) Handbook of Sol-Gel Science and Technology - Processing, Characterization and Applications - Volume I: Sol-Gel Processing
H. Kozuka, ed., Kluwer Academic Publishers, Boston, 2004.
(分担執筆)"Sol-Gel Processing of Fluoride and Oxyfluoride Materials" (Chapter 10), pp.203-224.

2) 蛍光体の基礎及び用途別最新動向
情報機構,東京 (2005年11月).
(分担執筆)"有機-無機ハイブリッド蛍光体"

3) ゾル-ゲル法のナノテクノロジーへの応用
シーエムシー出版,東京 (2005年11月).
(分担執筆)"ゾル-ゲル法による発光材料の合成"

4) ナノ結晶化ガラス薄膜のゾル-ゲル合成と発光材料への応用
NEW GLASS,第20巻第3号,pp.29-34 (2005).

5) ラボレベル・研究初期で必要となる発光素子、発光デバイス開発のための基礎技術・装置・測定、評価法
情報機構,東京 (2008年3月).
(分担執筆)"蛍光体合成とその評価法"

6) 発光材料の基礎と新しい展開-固体照明・ディスプレイ材料-
オーム社,東京 (2008年).
(分担執筆)"ナノ粒子"


7) Chemical Solution Deposition of Functional Oxide Thin Films
T. Schneller et al., eds.,Springer, Wien, 2013.
(分担執筆)"Luminescent Thin Films: Fundamental Aspects and Practical Applications" (Chapter 29), pp.725-745.


8) ゾル-ゲル法の最新応用と展望
シーエムシー出版,東京 (2014年2月).
(分担執筆)"発光材料の合成と応用"


9) ゾル-ゲルテクノロジーの最新動向
シーエムシー出版,東京 (2017年7月).
(分担執筆)"マルチ機能性発光材料"


代表的な原著論文

著者 タイトル 掲載雑誌名 巻・号・年・頁 
H. Ye
R. Hara
M. Hagiwara
S. Fujihara
Synthesis of Pt-loaded Y2WO6:Eu3+ Microspheres and Their Hydrogen-sensitive Turn-off Luminescence ACS Omega  Vol.5, No.12 (2020), pp.6697-6704
M. Muroi
M. Hagiwara
S. Fujihara
Fabrication and Refractive Index Control of Transparent and Luminescent HfO2:Ln3+ (Ln3+ = Eu3+, Tb3+) Thin Films for Enhanced Surface Emissions ECS Journal of Solid State Science and Technology Vol.8, No.12 (2019), pp.R169-R175
K. Motomiya
K. Sugita
M. Hagiwara
S. Fujihara
Biphasic Sol–Gel Synthesis of Microstructured/Nanostructured YVO4:Eu3+ Materials and Their H2O2 Sensing Ability ACS Omega Vol.4, No.23 (2019), pp.20353-20361
Y. Tsuchiya
M. Hagiwara
S. Fujihara
Fluorochromic Properties of Undoped and Ln3+-doped CaWO4 Phosphor Particles ECS Journal of Solid State Science and Technology Vol.7, No.5 (2018), pp.R50-R56
T. Yagami
M. Hagiwara
S. Fujihara
Fabrication of Luminescence-sensing Films Based on Surface Precipitation Reaction of Mg-Al-Eu LDHs Journal of Sol-Gel Science and Technology Vol.82, No.2 (2017), pp.380-389