研究内容


生物現象に関わる天然物の
単離・構造決定


当研究室で取り組んでいる例を2つ紹介します。

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1つ目は鳥がタマゴの中で育ち、孵化するまでの話です。
 タマゴの中には雛が育つために必要な栄養が全て入っており、中でも雛の骨は卵殻カルシウムが吸収されてできることが知られています。炭酸カルシウムでできた卵殻が胚から延びた膜からの酸の分泌によって溶解し、膜を通して胚に吸収されていくのです。
 でも、卵殻から胚を外して培養し、炭酸カルシウムを与えてもカルシウムはうまく吸収されません。卵殻カルシウムならではの性質があるからです。
 わたしたちは、ゆくゆく骨に使われる卵殻内側の炭酸カルシウムの粒の大きさや結晶系、内側に特に多く存在する化学成分を調べました。その結果、卵殻内側に特徴的な有機成分が炭酸カルシウムの粒子を溶解しやすい状態に保つことをみつけました。これにより、雛が骨を作るカルシウム移動に卵殻中の有機成分が役立っていることがわかりました。


 もう1つはくしゃみに関する研究です。
 くしゃみは外界からの刺激を察知して、危険因子を排除しようとする生体防御反応の1つと言えます。でも、化学物質によるくしゃみについてはどのような物質であればくしゃみを起こすのか、そのメカニズムも含めて全くわかっていません。
 そこで、化学物質によるくしゃみに注目し、マウスのくしゃみの数を数える方法でくしゃみ誘発活性の評価を行いました。詳細に調べると、化学構造のわずかな違いを認識してくしゃみ誘発活性が大きく変わることがわかりました。
 自然界にはくしゃみを起こすと言い伝えられている不思議なクラゲや植物がいます。それらに含まれるくしゃみ誘発物質を詳しく調べています。

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その他に、貝類菌類植物などからも
不思議な生物現象に関わる化合物を探索しています。

化合物の正体はタンパク質かも,
糖類かも,無機物質かもわかりません。

でも正体がわかった瞬間、
推理小説の最後のように,
生物現象のが化合物の性質や反応で
説明できるようになります。

暗中模索の間は大変ですが,
目からウロコの瞬間を夢見て,
日々それぞれの研究対象の生き物たちと
向き合っています。




天然有機化合物の全合成


Pacta

 旧中田研究室の時代から、当研究室では
「複雑・大きい・ユニーク!」
な天然有機化合物の全合成に取り組んできました。

 合成ターゲットも作り方もそれぞれみんな違うので、たくさん経路を考えて、たくさん実験をして、やっと少しずつ形になります。その都度変化する構造をよく解析して、「モノ」をよく観察すると、溶けたい溶媒、反応する部分構造が見えてくるはず!化合物をうまく先導して目的の天然物が合成できる頃には化合物も学生さんも立派に成長します。

 図に挙げたパクタラクタムは2019年に報告した全合成の例です。この化合物は40年前に構造だけ示されて、ほんとに自然界に存在するのかさえ疑わしかった化合物ですが、今回アミノ酸の不斉炭素を起点に立体選択的にシクロペンタン骨格を構築し、世界で初めて全合成を達成しました。できた化合物のサンプルを基に菌の培養液から探したところ、パクタラクタムが本当に存在することを確かめることができました。

 天然物全合成の醍醐味は自分で思い描いた方法で化合物の形を作り、描いた化合物を合成できること。最後に天然物の分析データとピッタリ一致した時の喜びは感無量!
 でもこの「天然物」は生物たちが作った自然の知恵です。生物たちのすごい全合成に敬意を払いつつ、化学合成でしかできない類縁体合成や挑戦的な合成法で複雑な化合物の新しい価値を探っています。






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慶應義塾大学
理工学部 応用化学科
天然物有機化学研究室
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