Environmental Chemistry Lab, Department of Applied Chemistry, Faculty of Science and Technology, Keio University
慶應義塾大学 理工学部
応用化学科 環境化学研究室
Led by Tomoaki OKUDA, Ph.D.

研究内容

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ハイライト

粒子状物質の有害性評価

大気中を浮遊する微小な粒子(エアロゾル)は呼吸によって生体内に入り込み健康に悪影響を及ぼすことが懸念されています。しかし、粒子状物質の有害性を決めている要因が何なのかは、まだ解明されていません。当研究室では、独自性の高い様々な手法を用いて、粒子状物質の有害性の謎を解く鍵を探しています。

CYCLEXプロジェクト

粒子状物質の有害性を評価するためには、粒子状物質そのものを用いた細胞・動物曝露実験を行うことが重要です。粒子状物質は一般的にはフィルターを用いて採取されますが、その方法ですと、曝露実験に必要な量の粒子をフィルターから取り出すことが困難でした。また、フィルター法では、サンプリング中に捕集された粒子とガス状成分の反応により粒子の変質が起こったり、得られた粒子を細胞曝露実験等に利用する際にフィルターの素材そのものが混入するなど、正しい評価実験が行えなくなる可能性があります。そこで当研究室では、フィルターを用いずに粒子状物質を採取するために、インパクターとサイクロンを組み合わせた大流量粒子サンプラーを開発しました。そしてこのサンプラーを本学屋上の他、埼玉県環境科学国際センターと福岡大学に設置し、国内3地点において季節毎に粒子状物質を採取しました。得られた粉体について、当研究室を中心に化学成分を分析すると同時に、京都大学において細胞・動物への曝露実験を行いました。その結果、粒子の有害性はその化学的特徴だけでは説明できず、生物由来成分も有意に関連することが明らかとなりました。CYCLEX (Cyclone collection of PM2.5 followed by Exposure Experiments) と名付けられたこのプロジェクトは2016年から2019年の3年間実施されましたが、今後は粒子状物質中の遺伝子解析や、より詳細な生体応答を解析するなど、内容をさらに発展させたプロジェクトを進めてゆきます。

Snap Shots

2016年6月よりスタートした、環境省環境研究総合推進費によるCYCLEXプロジェクトのロゴマークです。

初代タイプです。論文#47は、このタイプの性能評価実験の結果です。

CYCLEXプロジェクトに用いる最新型の装置です。スタイルも洗練されてきました。

SMPS, APS, OPCなど、様々な計測器を利用して性能評価を行います。

粒子状物質の酸化能測定による有害性評価

大気中粒子状物質の生体影響に関する化学的なパラメータとして酸化能 (OP: Oxidative Potential) が挙げられ、フィルター捕集された粒子状物質については数多くの研究がなされています。本研究は、粒子状物質の化学的特徴と曝露評価を同時に解析するためにサイクロンによって採取された粉体について、この酸化能の測定を進めています。方法としては、粒子状物質の酸化能を測定する際に一般的に用いられるDTT (Dithiothreitol) Assayと、人体に豊富に存在する生理学的酸化防止剤であるアスコルビン酸を使用するAA (Ascorbic Acid) Assayを用いています。

Snap Shots

微小粒子と粗大粒子の大流量同時採取装置の外観です。左にサイクロンとインパクターがあり、右にポンプと流量計があリます。

本装置で得られた粉体試料です。こちらを用いてDTT AssayやAA Assayが行われます。

AA assayにおいてアスコルビン酸の量を測定する際に使用する吸光光度計です。

粒子状物質の生化学的有害性評価

粒子状物質の有害性に関連するパラメータとして、粒子を構成する化学成分および生物成分が考えられます。粒子の化学成分に着目した研究例は多いですが、これまで粒子状物質中の生物由来成分を、化学成分と同時に調べた例はほとんどありません。これまでに当研究室にて進めてきたプロジェクトによって、粒子の有害性はその化学的特徴だけでは説明できず、生物由来成分も有意に関連することが明らかとなってきました。生物由来成分のうち、特にグラム陰性菌の細胞壁を構成する多糖類であるエンドトキシン(またはLPS : Lipopolysaccharide)は、細胞酸化ストレスを誘発し、炎症反応や細胞障害、臓器障害を引き起こす事が知られています。また、真菌の細胞壁の構成成分であるβグルカンも、粒子の有害性との関連が指摘されています。そこで本研究では、粒子状物質中のエンドトキシンとβグルカンを、多くの化学成分と同時に定量することによって、大気中粒子状物質の有害性を、生化学的視点から解き明かすことを目的としています。

Snap Shots

クリーンベンチを使って無菌状態の環境で実験を行います。

測定に用いるLAL (Limulus Amebocyte Lysate) Assayのキットです。

色が濃いものほどエンドトキシンの濃度が高いです。

マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定します。

サイクロン法で採取された粒子状物質中金属のXAFSによる化学状態解析

大気中粒子状物質の生体影響に関する化学的なパラメータとして、粒子中の金属元素の化学状態(酸化状態)が挙げられます。例えばクロムは価数によって有害性が大きく異なることが知られています。粒子状物質中の金属の化学状態は、従来は逐次分解法などの手法が用いられてきましたが、操作が煩雑であり、また溶液化するため感度の低下が避けられず、かつ破壊分析法であることが問題となっていました。そこで本研究では、シンクロトロンを用いて高感度かつ非破壊分析であるX線吸収微細構造 (XAFS: X-ray Absorption Fine Structure) 分光法を行い、粒子状物質中金属の化学状態を解析しています。

Snap Shots

採取された粒子状物質と、セルロースパウダーによって、層状のペレットを作成します。

実験は佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターのBL-11にて行っています。X線が試料に照射されることで発生する蛍光X線を測定しています。

実験装置の写真です。実験は泊まりがけで行います。

測定によって得られたスペクトルは、大気試料を採取した場所や季節によって異なりました。

粒子状物質の有害性評価のための可搬型サイクロン装置の開発

当研究室ではK-RiCやK-ViCのようなサイクロンを用いた大流量粒子サンプラーの開発実用化を行ってきました。本装置は非常に有用であるものの、現状では装置が大型であるため移動が困難であり、様々な場所における粒子捕集には適していません。そこで本研究では、小型サイクロンを用いた可搬型微小粒子サンプラーを開発し、機動力を活かして様々な場所において粒子状物質を捕集し、有害性評価を行うことを目標としています。

Snap Shots

K-RiCやK-ViCに用いられているPM2.5捕集用サイクロンと、可搬型微小粒子サンプラーに組み込む小型サイクロンの写真です。

可搬型サイクロン装置の構想図です。

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