慶應義塾大学理工学部応用化学科 有機物質化学研究室 

 

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機能性ベシクルの開発 

両親媒性分子(油にも水にも溶解する分子)が水中で自己集合することで形成する,マイクロメートルサイズの袋状人工膜(ジャイアントベシクル)は,親水/疎水的な化合物を内部に保持できることから,マイクロリアクターや輸送体などの機能性材料として注目されています。これの性質(強度,安定性,サイズ,形状)を制御するために,これまで様々なジャイアントベシクルの調製法が開発されていますが,化学反応によってその場で制御する試みは殆どなされていません。このような技術は,ベシクルが所定の場所に到達した後に必要な分だけ内包物を放出して化学的な刺激によって膜が閉じる,ということが可能となり,機能性材料として応用する上で有用であると考えられます。

上記の目的を達成するために,私達は重合性官能基を有する両親媒性分子を分子設計し,その合成を行いました。これは,単に水中に分散させただけでは不溶な結晶として存在するのみでしたが,重合反応をさせることで様々な分子集合体が形成されることを見出しました。

左から重合性官能基の転化率が30%(球状),95%(カップ状),0%(反応前,結晶)の顕微鏡写真

左の写真のジャイアントベシクルが形成した分散液を10倍に希釈しても,蛍光顕微鏡像からジャイアントベシクルが残存していることが確認できました。このことは,このジャイアントベシクルの安定性が比較的高いことを示しています。
現在は,このような重合性の両親媒性分子の重合反応後の組成が,形成するジャイアントベシクルの形状や機械的な強度に与える影響を明らかにするとともに,それらの制御を目指して研究を行っています。また,ジャイアントベシクルをリアクターとして応用する目的で,生体内の酵素のように高基質特異性と高立体選択性を発現する特殊反応場としての利用を視野に入れた研究も行っています。

最近では光やpH応答性の低分子および高分子の両親媒性分子を配合したジャイアントベシクルが,刺激を与えると変形しながら外水相から物質を取り込んだり,コアセルベートや分子結晶などの別の分子集合体へと構造転移したりする現象の誘導に成功しています(下図参照)。特に液-液相分離により生じるコアセルベートは,生命の起源を考えるうえで重要な構造体と言われており,このような研究を進めることで生命誕生の秘密に迫ることができるのでは,と考えています。さらに,化学反応を介してベシクルが高次な機能を獲得する化学システムの創成を目指した研究も進めています。

代表的な論文

・T. Kojima, K. Terasaka, K. Asakura, T. Banno, "Photoinduced phase transition between vesicles and coacervates using low-molecular-weight catanionic amphiphiles", Colloids Surf. A, 669, 131512 (2023).    
・D. Sawada, K. Asakura, T. Banno, “Pathway-dependent phase transitions of supramolecular self-assemblies containing cationic amphiphiles with azobenzene and disulfide groups”, Chem. Eur. J., 27, 13840-13845 (2021).
・D. Sawada, A. Hirono, K. Asakura, T. Banno, “pH-Tolerant giant vesicles composed of cationic lipids with imine linkages and oleic acids”, RSC Advances, 10, 34247‒34253 (2020).
・M. Tameyuki, H. Hiranaka, T. Toyota, K. Asakura, T. Banno, “Temperature-dependent dynamics of giant vesicles composed of hydrolysable lipids having an amide linkage”, Langmuir, 35, 17075-17081 (2019). 
・H. Yuasa, K.Asakura, T. Banno, “Sequential dynamic structuralisation by in situ production of supramolecular building blocks”, Chem. Commun., 53, 8553-8556 (2017).

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