結晶成長   アパタイト   バイオミネラル   エネルギー材料  
ナノブロック   シリカ・量子ドット   低次元ナノ材料   有機結晶・高分子

 有機結晶・高分子班は主に以下の3つのテーマを軸に研究を進めている。

遷移金属塩結晶を用いた固相−気相界面における導電性高分子材料の合成

 導電性高分子材料は、トランジスタや太陽電池などへの応用を目指して、様々な合成方法や構造制御に関する研究が行われてきた。しかし、導電性高分子は、一般に剛直な主鎖骨格に由来して不溶かつ不融であり、重合後のポリマーの加工性は乏しい。これまで、置換基の導入による導電性高分子の可溶化は検討されているものの、煩雑な合成過程を要する点が課題である。近年、モノマー蒸気を活用した気相反応において、重合過程と同時に導電性高分子の基材上へのコーティングを行う方法が注目されている。これまで開拓されてきた方法は、モノマーと酸化剤を同時に蒸気にする方法や酸化剤を塗布した高分子マトリックスへモノマー蒸気を導入させる方法であり、高温・低圧環境を要することや工程数が多いことなど作製上の課題が存在する。本研究では、ある種の酸化剤固体結晶表面上におけるモノマー蒸気からの自発的な反応活性種の生成に着目することで、低温・常圧かつ溶媒フリーな導電性高分子のコーティング法および形態制御法の開拓を目指している。
 密閉容器内にモノマー液体、酸化剤結晶、基板を準備し、60 ℃・大気圧下に静置したところ、酸化剤結晶表面のみならず、容器内の離れた場所にある基板上にも導電性高分子の生成が観察された。また、階層構造を持つウニの棘を基材として重合を行うと、ナノスケールからマイクロスケールまでその構造を転写した導電性高分子が得られた。リチウムイオン電池の正極活物質へコートを行うことで、充放電時の過電圧の減少や高充放電速度時の劣化抑制など、電池性能の向上に寄与した。本手法を応用することで、様々な基材へ、様々な導電性高分子をコーティングする技術の開拓が期待できる。


バイオミネラルのメソクリスタル構造を利用した導電性高分子・有機結晶の形態制御

 貝殻やヒトデの外骨格、ウニのトゲなどの炭酸カルシウムから構成されるバイオミネラルは、ナノメートルからミリメートルにわたって形態制御された階層構造を持っている。当研究室の研究において、これらの階層構造は、ナノ結晶が生体高分子を複合しながら結晶方位をそろえて組織化した構造によって形成されていることが発見されている。さらに、このナノ結晶間には間隙が存在し、有機分子を導入するホストになることが見出されている。近年、様々なナノメートルスケールの空間を有するホスト材料が開拓されている。本研究で扱っているナノ結晶の配向組織化構造は、ナノメートルスケールの空間と階層的に制御されたマクロな形態を併せて持ったホスト材料とみなすことができる。このホスト材料のナノ空間の理解およびこれを活用した機能性有機材料の形態制御を試みている。
 バイオミネラルのナノ空間を活用することで、高分子や有機結晶に階層的な形態を転写・付与することに成功している。本手法は、いくつかのオリジナルの階層構造体および有機材料の組合せにおいても有効であることを確認している。結晶成長制御によって所望の形態を作製し、これを転写することでこれまで形態制御が容易ではなかった様々な有機材料の形態制御が可能となり、センサや電極材料としての高性能化が可能となる。


魚の表皮構造に着想を得た有機結晶の形態と配向性の制御

 生物は結晶成長を制御することにより多様な形態や機能を発現させている。バイオミネラリゼーションは生物の行う無機結晶の成長制御のことであり、真珠など多くの研究がなされている。また、それにならう無機材料の合成研究も幅広く行われている。一方で、魚の表皮で見られるような有機結晶の成長制御に関する研究例は少なく、それにならう有機材料の合成研究についての検討は十分ではない。
 本研究では、魚の表皮構造に着想を得て、有機結晶の成長制御を目指した。まず、キビナゴの表皮におけるグアニンの微細構造を観察した。キビナゴの表皮では、形態および配向性の制御された板状のグアニン結晶と細胞質が多層に積層した周期構造が形成されていることがわかった。次に、魚の行う有機結晶の成長制御を模倣し、魚の表皮のグアニン結晶に類似したメソクリスタル構造の構築を目指した。表面修飾基板と可溶性制御分子を用いた溶媒蒸発法により結晶成長を行なうことで、魚の表皮構造に着想を得た有機結晶の形態と配向性の制御が可能であることを示した。また、この結晶成長制御技術はプリン誘導体であるヒポキサンチンおよび尿酸二水和物などをはじめ、多様な有機結晶にも応用できることがわかった。